*性暴力やトランスジェンダーへの差別に関する内容を含みます。閲覧してしんどくなる方もおられるかもしれませんのでご留意ください。
LGBTの権利保障をめぐり、国や自治体で近年さまざまな議論が行われています。
性的指向や性自認による差別禁止を行うと「女だと言い張れば女湯に男性が入れるようになる」などと主張する意見もありますが、実際のところどうなのでしょうか。
この記事を書いている2023年2月時点で、性的指向・性自認及び性的少数者に対する差別的な取扱いを禁止することなどを規定している条例は全国60以上の自治体に存在しています(出典:一般財団法人 地方自治研究機構)。
自治体によって条例の内容は異なりますが、今回は「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」(2022年)制定に尽力された、埼玉県自民党の渡辺大議員にお話を伺いました。

渡辺大 前ふじみ野市議会議員を経て、 埼玉県議会議員
編集部: 「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」はなぜ作成されたのでしょうか?
渡辺議員: 2020年に埼玉県が実施した調査では、小学校1年生の頃から現在までの精神的に追い込まれた経験について質問したところ、性的マイノリティの 65.8%が「死ねたらと思った、または自死の可能性を考えた」経験があると回答しています。同じ質問に対する性的マイノリティ以外の人たちの回答は26.8%でした。困難に直面している当事者が多く存在していることから、全ての人の人権が尊重される社会の実現に向けて、本条例が作られました。
編集部: この条例では、第4条に「何人も、性的指向又は性自認を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」という、いわゆる差別禁止規定が入っています。不当な差別的取り扱いとは、どのような内容を示すのでしょうか?
渡辺議員: 具体的な事例としては性的指向や性自認を理由とした従業員の解雇や、採用内定者の内定切り、ハラスメントやいじめなどを想定しています。私がお話を聞いた中でも、性自認を理由に職場を追いやられたトランスジェンダーの方について伺ったことがあります。
(※「トランスジェンダーの就労状況はどうなっているか」もよければご参照ください)
編集部:この条例では、第3条に基本理念として「性の多様性を尊重した社会づくりは、全ての人があらゆる場において性の多様性を尊重され、安心して生活できるよう、行われなければならない」と書いてあります。「あらゆる場」とは女子更衣室や女子トイレ、女湯などのプライバシーに関わる場所のこともさすのでしょうか?
渡辺議員: 性的指向や性自認に関する事柄は人権として絶対的に保証されなくてはいけません。一方、内心にとどまらず行為として表現されることが結果として他の権利と衝突する場合には、公共の福祉として双方を調整する必要があります。
編集部:体は男性、性自認が女性である人を女湯に入れることについて、入浴施設側が拒んだらそれは不当な差別的取扱いになりますか?あるいは顧客が入浴してほしくないと求めることは差別に当たりますか?
渡辺議員: 先ほど話したことの繰り返しになりますが、公衆浴場などの衛生や風紀に必要な措置をこうじるための男女を分ける措置を妨げるものではありません。公衆浴場にも営業の自由があります。入浴施設の管理者が入浴施設への立ち入りを禁止することは、一律に条例違反になるわけではないです。またお客さんの要望についても一律に差別に当たるわけではありません。
編集部:自分は女性であるとなりすましを行う人物に対処できるのでしょうか?
渡辺議員:条例の規定が、迷惑行為防止条例等、偽計業務妨害罪、建築物侵入剤などの構成要件の該当性を否定したり、違法性を阻却するものではありません。
編集部: 渡辺さん、お話を聞かせてくださりありがとうございました!
今回は埼玉県の条例について話を伺いました。冒頭でも述べた通り、2023年2月時点で、性的指向・性自認及び性的少数者に対する差別的な取扱いを禁止することなどを規定している条例を持つのは全国60以上の自治体にのぼりますが、条例の存在によって女湯に男性が侵入することが正当化された事例はありません。
今後、他の自治体や国レベルで差別禁止の法制化について議論する際にも、上記の事柄を踏まえた話し合いが行われることで、当事者の命や暮らしを守る建設的議論となることを期待しています!