トランスジェンダーと就労に関するデータをみてみましょう。
まずは国内のデータとして、認定NPO法⼈虹⾊ダイバーシティと国際基督教⼤学ジェンダー研究センターとの共同調査と行われた「LGBTと職場環境に関するアンケート調査 niji VOICE 2020」をみてみます。
上記調査では、560名のトランスジェンダーの就業状況について次のことがわかりました。
・17.3%が就業していない (コロナ前である2019年のデータでは15.3%)
・42.53%が非正規雇用で、シスジェンダーの男女と比べて高かった
・トランス男性の34.3%、トランス女性の34.8%が年収200万円以下
・4割強の当事者が、職場での差別的言動について「多い」「中程度」と感じている。
・職場でのカミングアウトは、シスジェンダーのゲイ・レズビアンと比較して高い(同僚や上司へのカミングアウト50%以上がしている)
また、新型コロナウィルス感染拡大の影響として、次のことがわかりました
・トランスジェンダーで在宅勤務の比率が低かった。サービス職やブルーカラー職といった在宅勤務のしにくい職業を回答する人が多かった。
・預金残高が1万円以下になったトランスジェンダーが31.3%にのぼった。今後さらに困窮の度合いが高まる懸念がある
回答者の出生時の性別や年齢、居住地の分布を考慮すると、上記にあげたデータを過剰に一般化することはできないものの、トランスジェンダーが安定雇用につながりにくい、または貧困状態に陥りやすい傾向にあることが推測されます。
就職活動に関するデータもみてみましょう。
認定NPO法人ReBitが2018年に調査した「調査報告:LGBTや性的マイノリティの 就職活動における経験と就労支援の現状」では、95名のトランスジェンダーの経験について次のことがわかりました。
・87.4%が性的指向・性自認、もしくは性別違和に由来した困難等を経験していた。
・困難の内訳としては、主に次のものがあがった
①男女分けに関する困難(性別欄、服装・髪型・化粧等)
②カミングアウトにまつわる困難(クローズドでの就活、カミングアウトの有無や範囲、自分らしくあることによるカミングアウトの必要性など)
③人事・面接官の無理解による困難
・一社にもカミングアウトせず選考を受けたのは61.5%と、性的指向に関するマイノリティ(86.99%)よりも少なかった。
性別欄については2020年にJIS規格の履歴書様式が廃止され、厚労省も「記載は任意である」としていますが、いまだに性別を意識させられることの多い就職活動では、シスジェンダーに比べると困難が大きいと言えます。
厚労省委託事業として作成された三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」では、次のデータも紹介されています(トランスジェンダー 101人が回答)。
・職場での困りごととして、約2割が「プライベートの話をしづらい」「自認する性別と異なる性別でふるまわなければならない」と回答、約1割は「人事評価で不利益な取り扱いを受けること」をあげた。
・「健康診断を受けづらい」17.8%、「トイレや更衣室などの施設利用」14.9%など日常生活で困りごとを抱えている場合がある。
・約4割が性的指向や性自認を理由としたパワハラやSOGIハラを経験していた
・2割強が望まない身体接触やLGBTを揶揄する冗談を経験していた
トランスジェンダーも安心して働ける環境を作れるよう、この事例集ではさまざまな企業の取り組みも紹介されています。いくつか抜粋してみます。
・採用については、応募書類について性別欄を設けていない。労務管理書類については、戸籍上の性別を書く欄が残っている書類もあるが、社員の目に触れる書類は白塗りで対応している(東京都 運輸業、郵便業 1,001人以上)
・トイレの利用については、ビル会社と連携しながら、当事者が望む形で利用できるようにしている。周りの社員は受け入れている様子だが、何か違和感がある場合には、人事総務部まで連絡するように周知をしている(東京都 金融業、保険業 100人~300人)
・ホルモン治療や性別適合手術等に対する支援として、一週間以上の休暇を取る場合、失効年次有給休暇の積み立て制度(年間5日、最大45日積立可)の対象としている。(東京都 製造業 1,001人以上)
このような取り組みが広まっていくことが期待されます。
*企業によってはトランスジェンダーの元就活生をCMに起用したり、またメディアの取材に応じたりすることで、トランスジェンダーも安心して働ける社会づくりのために発信をしています。