性暴力・DV被害者の支援者にとってトランスジェンダー は脅威なのか

*性暴力やトランスジェンダーへの差別に関する内容を含みます。閲覧してしんどくなる方もおられるかもしれませんのでご留意ください。

トランスジェンダーの権利を認めると「自分は女」だと主張する加害者が性暴力やDV被害者支援の現場を訪れるので脅威になると主張する人たちがいます。だからこそトランスジェンダーの存在を認めてはいけないとの訴えなのですが、実際のところ支援現場にいる人たちの経験はどうなのでしょう。

2018年に英国でDV被害者支援に関わる団体に対してインタビューを行った報告書「Supporting trans women in domestic and sexual violence services」を見てみましょう。英国では性別承認法の改正についての議論が行われてから、トランスジェンダーを脅威とみなす論調が広まりました。なかでも「DVや性暴力被害にあった女性たちの安全が脅かされる」といった主張はメディアやインターネットの中でも目立ちました。しかし、それらの議論を展開していたのは、実際にDVや性暴力被害者支援に関わる人たちではなく、もともと女性の安全に関心のない保守派の論客も多くいました。現場の声が聞かれていないことから作成されたというこの報告書では、次のことがわかりました。

・インタビューを受けたDVや性暴力被害者支援に関わる12団体について、これまでにも女性専用施設でトランス女性を受け入れた経験がしばしばあったこと。それらの施設では他のサバイバーにするのと同じよう、その人の状況にあわせ、本人の回復を中心に添えたサポートを行い、多くの施設でトランス・インクルージブになるようスタッフ研修をしたりポリシーを設けていました。トランス女性を受け入れた経験について支援者たちは肯定的にふりかえり、他の利用者も同様であったと話していました。

・性別承認法の改正をめぐり「加害的な男性が施設に近づくかもしれない」という意見については、リスクアセスメントを適切に行えばよいこと、法律がどうなろうと今後も自分たちのサービスの安全性を守るためにいかなる妥協をすることはないことが示されました。

・支援者の中には、黒人やアジア人、レズビアンやバイセクシュアル女性などと同じようにトランス女性が被害にあっても支援を求められないままでいることについての懸念が示されました。これまでにも多様なサバイバーを包摂するために支援者たちは努力を続けてきたこと、そして近年のトランスバッシングに関わらず、すべてのサバイバーを支援するために今後も支援を続けていきたいことが語られました。

もっぱら「脅威」なのは施設の予算カットだと支援者たちは語りました。

日本国内でも、性暴力やDV被害者支援に関わる人たちの中から「トランスジェンダー を排除するために女性の安全を持ち出さないでほしい」との声があがりつつあります。この記事を執筆しているひとりも性暴力・被害者支援に関わった経験のあるトランスジェンダーのひとりですが、国内でも数十年単位でトランスジェンダーが支援現場で尽力していることについても、もう少し評価されてほしいと願います。

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