トランスジェンダーについてSNS上で流れている情報についてファクトチェックを行ったページです。性暴力以外のトピックに関するファクトチェックはこちらからご覧いただけます。
*性暴力やトランスジェンダーへの差別に関する内容を含みます。閲覧してしんどくなる方もおられるかもしれませんのでご留意ください。
❶「海外ではトランスジェンダーの権利を認めることで性暴力が増えている」:根拠不明
「トランスジェンダーの運動により性暴力がたくさん起きている」とする主張や「トランスジェンダーがこんな性加害を行った」と英語文献を紹介することで性暴力が増えているかのように印象づけるものなど、SNSで見かけることがあります。
トランスジェンダーと性暴力について論じる際に知っておきたいファクトを2つご紹介します。
⑴ トランスジェンダーの約半数は性暴力サバイバーです
宝塚大学看護学部の日高庸晴教授がLGBTQ+を対象に2019年に行った調査*(有効回答数10,769人)では、トランス女性の57%、トランス男性の51.9%が性暴力被害経験を有しました。トランスジェンダーはしばしば「加害者予備軍」「怖い人」と思われがちですが、実際には半数近くがサバイバーということです。性暴力はただでさえ相談しにくい犯罪被害ですが、トランスジェンダーの場合、被害を受けても安心して相談できる環境が少ないことも課題になっています(警察での二次加害についてYouTuberのじゅんじゅんが話しているので、よければご覧ください)。

⑵ 犯罪増加につながっていないという調査はあります
カリフォルニア大学ロサンゼルス校が2018年に発表した米国初の大規模調査では、性自認による差別禁止をした地域、していない地域を比較したところ、トランスジェンダーが性自認によりトイレを使うことが法的に認められても性犯罪増加にはつながっていないことが指摘されました。
なお、このような調査はアメリカでは初めてのもので、そもそもトランスジェンダーのトイレ利用に対して「懸念」を示す勢力がなければ行われなかったと言えるでしょう。アメリカでは2015年に全土で同性婚が可能となり、もともとLGBTの権利に反対してきたキリスト教右派がトランスジェンダーへの攻撃に転じました。2016年には共和党優勢の各州で公衆トイレの使用を「生物学的性別」に一致した施設に限定する、いわゆる「バスルーム法」が提案されて議論を呼びました。このような政治的背景の中でようやく調査されたものです。
これ以外の大規模調査は2021年10月時点で報告されていません。
よって現時点で言えることとしては、以下のことでしょう。
・性暴力被害はトランスジェンダーにとっても切実な課題であること
・性暴力が増えない可能性が十分ありえること
なお、トランスジェンダーへの性暴力について少し前のデータとなりますが、「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」が実施した2013年調査では、出生時にわりあてられた性別が男性で性別違和のある生徒の23%が小学生から高校生の間に性的な暴力(服を脱がされる・恥ずかしいことを強制)を経験していました。性別にかかわりなく性暴力の加害者にも被害者にもなりえることを幼少期から伝える必要性が示唆されます。