カリフォルニアでも未成年のホルモン治療に親の同意は必要/アメリカの状況まとめ

日本語圏内で昨今、「カリフォルニア州では、未成年者が親の同意なしにホルモン療法などの医療行為が受けられる」「学校を早退しないでも受けられる」などの情報が飛び交っています。そのような出版物が日本語に翻訳されたことが背景と考えられますが、地方紙などでも裏どりなく掲載されてしまっているため、実際のところを整理しました。なお米国でも同様の検証記事が出ています

① カリフォルニア州でも未成年のホルモン治療に親の同意は必要

カリフォルニア州には10 代の若者が、親や保護者の許可や通知を必要とせずに性と生殖に関する健康サービスを受けられる法律が存在します。学校を休むこともできます。National Center for Youth Lawのウェブサイトによれば、避妊(緊急避妊を含む)や性感染症の予防・検査・治療(12歳以上の場合)、妊娠検査と出生前ケア、中絶が対象となります。しかし、この中には、性別移行にまつわる医療は含まれません。

もっと詳しくは、こちらのチャートにまとまっています。

チャートは他のページもありますが、このように細かく説明されています

不同意性交の場合への対応や、児童虐待またはネグレクトの診断のための骨格X線撮影などについて細かく言及されています。やはり性別移行にまつわる医療行為はチャートに含まれておりません。

10代の若者はしばしば妊娠や性感染症といった問題に直面するものの、早期受診・早期治療につながれないことがあるため、上記の法律によって適切な医療サポートが行えるようになる事例は想定できます。

アメリカにおける政治的な話題としてのトランスジェンダー

現在アメリカでは、トランスジェンダーをめぐる話題は非常に政治的に扱われています。トイレやスポーツに関する法議論もありますが、医療に限っても次のような動きがあります。2024年秋の大統領選挙をめぐり、さらに玉石混合の話が飛び交う可能性があることから整理します。

・アーカンソー州では2021年に、未成年のトランスジェンダーに、性別適合に必要な医療を施すことを医師に禁じる法律が制定されました。このような法律はアメリカでは初で、その後少なくとも19州が同様の法的措置を講じましたが、連邦地裁により2023年にアーカンソー州法は無効とされました。地裁の判事は、州が「禁止された治療が効果的でない、あるいは実験的だという十分な証拠を提出できなかった」としています。連邦裁判所はこれまでも複数の州で同様の法律の施行を阻止しています。

・フロリダ州では成人を含めた全年齢のトランスジェンダーの医療提供を制限する議論が行われました。トランスジェンダーの性別移行に関する医療についてメディケイド(低所得者向け医療保険)の対象外とする法案が成立しましたが、のちに連邦地裁によって無効であるとして差し止めされています。ホルモン療法の中断などを余儀なくされる成人の当事者が続出する可能性があったことから大きな波紋を呼びました。

なおフロリダ州では、2022年に通称「ゲイと言うな法」が制定され、教育における親の権利を保護するとの名目で、公立学校でLGBTについて教えることが規制されたこともよく知られています。規制の対象は、以前は小学3年生まででしたが、2023年には高校生まで範囲が拡大されました。「ゲイと言うな法」は、フロリダのみならずアラバマ州、アーカンソー州、インディアナ州、アイオワ州、ケンタッキー州、ノースカロライナ州にも広がり、学校や公立図書館からLGBTQに関する書籍が排斥されるといった禁書運動が進んでいます。日本でも禁書運動については報道が多くご存じの方は多いかもしれません(NHK朝日新聞東京新聞など)。

*フロリダの「ゲイと言うな法」はその後の訴訟で、いじめ防止などの場合ならLGBTQ+を取り上げても良いこと、授業で使う教材ではないなら図書館の本の選定についても適用されないことなどが和解に盛り込まれましたが、いぜんとして教育現場への委縮効果は甚大です。

・テキサス州のグレッグ・アボット知事は、2022年に州の家族・保護サービス局(DFPS)に宛てた書簡で、子どもたちの性別適合治療を「児童虐待」として調査するよう指示を行いました。子どもに寄り添う保護者が虐待親として扱われるほか、教師や医師、看護師は報告を行った場合には刑事罰を受ける可能性もあり、支援団体などから強い懸念が示されました。LGBTの子を持つ保護者団体として著名なPFLAGにも、性別移行を希望する保護者に対する同団体の支援状況・内容についてテキサス州から情報提供の命令が下されました。PFLAGはこれに対し州を提訴、2024年にこの命令は仮差し止めされました。

・一方で、カリフォルニア州では2022年に「州をトランスジェンダーの子どもとその親の”避難所”にする」という法案が可決され、トランスジェンダーに対する迫害を強める州から当事者や家族を保護する姿勢を見せています。また、反LGBTQ法を作った州への公費での渡航禁止を決定することで圧力をかけていることから、このような動きを快く思っていないフロリダ州知事から冒頭のような発言が出たと思われます。

以上のように、子どもの性別移行だけでなく、成人を含めた当事者への医療の制限が検討され、さらには子どもを支援する保護者もまた児童虐待であるとして親権剥奪が議論されるといった事態となっています。

アメリカでは2015年に全州で同性婚が合法とされて以降、キリスト教福音派の一部は、同性愛者よりも人口が少ないトランスジェンダーをターゲットとして排除を訴える政策を進めています。

イギリスの下院議員によるビデオですが、この間の政治的な流れがよくわかります

なお、アメリカの次期大統領選にむけ、ドナルド・トランプ氏は、性別適合治療を行う医師をメディケアとメディケイドから排除すること、年齢を問わず性別移行の概念を広めること自体を政府機関に禁止することを話しています。これがもし現実化した場合には、アメリカでのトランスジェンダーの人々は、成人を含めて性別移行医療は困難となってしまいます。またトランプ氏が指名した副大統領候補のJ.D.ヴァンス氏は、未成年の性別適合治療を全米で禁止する法案の提出をリードした一人でもあります

大統領選に向けてSNS上で、真偽不明のトランスジェンダーに関する情報が増加することが予想されるため、センセーショナルな投稿には注意が必要そうです。

2025/1/21 追記:トランプ氏が大統領選を通じて「学校で子どもたちが性転換手術を、親の知らないところで受けさせられている」と主張したことについて、CNNでファクトチェックの記事が出ています。アメリカの全ての地域において、学校が親の許可なく子どもを性別適合手術に送ったという報告はなく、18歳未満の人に対する性別適合手術が合法である州でも手術には親の同意が必要です。

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