「トランスの方、寝場所あります」路上のどこかにいるあなたへ

トランスジェンダー当事者と周囲の人たちの話」シリーズ第二弾は、ホームレスの女性たちのグループ「ノラ」を立ち上げ、ご自身も都内の公園で寝泊まりをしているいちむらみさこさんにお話を伺いました。

いちむらみさこ
2003年から東京の公園のブルーテント村に住み始め、テント村の他の住人と物々交換カフェ・エノアールと絵を描く会を開いている。2007年にホームレス女性たちのグループ「ノラ」を立ちあげる。国内外で、反ジェントリフィケーション、フェミニズムなどに関連する作品展示や発表を行っている。

編集部:よろしくお願いします。いちむらさんとトランスジェンダーの人たちとの関わりについて、まずは教えてください

いちむらさん:私は2003年に東京都内の公園にある野宿者たちのテント村で生活をはじめて、その頃から他の野宿者と関わるようになりました。ノラという女性野宿者たちのグループで活動してきて、その中でトランスジェンダーの人たちとも出会いました。野宿者っておじさん中心になりがちなんですが、実際には男性ではない人もいます。テントで暮らし始めてすぐの頃から女の人たちがどうしてるのか知りたくてテント村でティー・パーティーを開いたり、その後も路上にいる女の人たちはどうしているんだろうと思って街で寝ている女性に声をかけたり、炊き出しにきている女性に話を聞いたりする活動をしてきました。そこでトランスの人との出会いもありました。シスジェンダーの男性ではない人たちには声をかけていこう、という感じで活動していました。

編集部:印象的だったエピソードをいくつか教えていただけますか。

いちむらさん:そうですよね。なのに窓口では「ひとりの部屋にするには特別な理由がないといけない。性同一性障害の診断書はありますか。ジェンダークリニックに行ってきてください」って言われてしまいました。彼女は「クリニック?自分はどこか悪いの?なにか検査されてどうなるんですか」って困惑していました。当事者でもトランスジェンダーって言葉を知らなかったりします。

編集部:いちむらさんも関わった渋谷の美竹公園での2021年末の越年越冬の取り組みでは「女性/トランスの方、寝場所あります」とのサインも掲げられました。このような方針を出したのはなぜでしょう。

いちむらさん:家を出て路上にいる女性やトランスの野宿者にこれまで出会ってきて、その人たちに向けてサインを掲げました。また、炊き出しや寝場所支援の対象は男性ばかりだと思われているので、置き去りにされがちな女性やトランスジェンダーにも、場の方針として開いていこうと呼びかけるプラカードのように、一番大きなテントに表札のように掲げました。越年の取り組み中ずっとそれはありましたが、トランスという言葉を使ってピンとくる当事者ばかりでもないし、字を読めない人たちだっている。どういう言葉が届くのかというのは今でも迷っています。

編集部:トランス包摂のポリシーについてTwitterに投稿したところ、女性とトランスジェンダーが一緒のところにいると性暴力が起きるとか、助けを求めにきた女性にとって地獄だ、などといったネガティブな反響もありました。

いちむらさん:トランス当事者の方が目にして傷つくようなことになってしまってとても申し訳ないです。公園での寝泊まりを希望する人は全員が一人用テントをつかうことになっています。「一人用テントです。公園はこうなっています」と写真つきで投稿したらわかりやすかったかもしれませんが、どんなテントなのか、公園がどうなっているのかが知られると、今度はそれによって襲撃されて安全性が保たれない可能性があります。私たちの越年越冬の取り組みはだれでも参加できる作りになっているため、YouTuberが妨害にきたり、写真を晒そうとする嫌がらせの人たちもきたりと、安全な場を守るために非常に苦慮しています。家族からの暴力など、さまざまな背景がある中で公園にきている人がそのような目にあってしまったら、行くところがなくなります。寝泊まりを希望する方は一人用テントを使っていますが、他の人にどのテントに寝ているのか特定されたくないとかいろんな声があって、安全性確保のために工夫をしています。

編集部:トランス包摂のポリシーを掲げた影響はどうでしょう。

いちむらさん:トランスの方への寝場所については数年前から掲げています。これまでに遠方から当事者がいらっしゃったことがあります。その方は寝泊まりはしませんでしたが、食事や話し合いにも参加していました。食糧や寝場所の提供ができる状況かと思います。また、性被害が起こった時に声をあげることの大切さや、望まないカミングアウトの強要やアウティングを防ぐ必要性に気がついた非当事者も現れました。

編集部:公園内では「安心していられる場所を一緒に作ろう」というグランドルールも掲示され、口頭でも共有されていました。

​​いちむらさん:ハラスメントのない安心な場を作ることは大変なことです。公園にたどりつく人の中にはさまざまな人たちがいます。美竹公園の越年越冬の取り組みは支援する側ー支援される側という関係性ではなく、作業や後片付けも、話し合いも、行政との話し合いも一緒にやろうという活動方針です。たとえば炊事を担当している仲間によれば「食器を洗うのも、得意な人が手際良くやれば早く片付くかもしれないけれど、みんなが関わってやることが重要」だと言うわけです。ぜんぜんうまく洗えていない人も混ざって一緒にやると、時間も手間もかかりますが、それでも協働することを大事にしています。

今回使われたグランドルール
今回使われていたグランドルール

編集部:サービスを提供する・される、というのではなくて、参加して一緒にやることでつながりを作るということですね

いちむらさん:野宿者にとって、安全にひらかれた場所はないし、安心は与えられるものではありません。ですからわたしたちで安心できる場を作るしかありません。昨今はコロナ禍のため弁当配食ですが、以前はみんなで作って、みんなで丼を囲んで、一斉に「いただきます」を言って一緒に食べていました。食糧をどんどん配っていくやり方のほうがトラブルは起きないんですよ。でも、中長期的にみたら、共に助け合って生きられる関係を内側から作るために、このようなやり方をしています。そうすると、さまざまな背景を持った貧困者が一緒になにかをやることになります。お酒の問題がある人もいるし、女性にしつこくしてしまう男性がいたり、やめさせようとすると口論になって、今度はその雰囲気がいやだという人も出てきます。問題を起こす人だって、ごはんを食べなくちゃいけない。寝場所も必要です。でもハラスメントがあってはいけないし、もし被害を受けた人がいたら安心してまた来られるようなケアも必要です。安全な場をつくるための取り組みは簡単なことじゃないです。課題はたくさんありますが、自分たちで安全な場をつくるために、トランスジェンダーの人も含めて、さまざまな人が関わってくれることを望んでいます。今のルールも、特定の人が言い出してできたのではなく、どうしたらトラブルを防げるのか何年もいろんな人たちが話し合って悩んで作ってきたものです。

編集部:活動の中で、今気になっていることはありますか。

いちむらさん:区立美竹公園が、隣接する都有地と共に再開発が予定されています。以前は宮下公園にも野宿者が住んでいましたが、そこは巨大なショッピングモールが建設され、夜間施錠し、野宿者たちを締め出して、誰もがいられる公共空間ではなくなってしまいました。もし美竹公園もそうなると、貧困者たちが助け合って生きていけるための場がますますなくなってしまいます。わたしたちは貧困者が生きられる安心安全な場を作ろうとしていますが、街の再開発は公共の公園まで、企業など商業主義を守る場に作り替えようとしています。そうすると、野宿者は居てはいけない存在としてますます排除の対象となってしまいます。家や社会から居場所を追われたり、暴力から逃げてきた人が最初に出てくるのがまず路上です。パンデミック以降の年末年始に、行政や他の支援団体が、生活保護の斡旋や宿泊場所の提供、食料配布サービスなどを行うようになりました。その影響もあり、美竹公園の越年越冬の取り組みの参加人数は少なくなりましたが、それでものべ848名ほどが参加しました。街で昼夜、過ごすことになり、様々な葛藤を抱え、不信感も強まっている状況で、それでも今は行政よりも、野宿状態を否定しないこの場や人の繋がりを信じてみようと思う人は少なくないのではないかと感じます。わたしもその一人ですし、そう感じて路上に留まるトランスの人もいるのではないかと思っています。追いやられた人たちが集まれる場として機能している公園を、わたしたちは失うわけにはいきません。渋谷の再開発の問題について、関心をもってほしいです。

編集部:いちむらさん、ありがとうございました!

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